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大阪簡易裁判所 昭和57年(ハ)817号 判決

原告 株式会社 ジャックス

右代表者代表取締役 河村友三

右訴訟代理人支配人 中村董

右訴訟代理人 大島杉郎

右訴訟代理人弁護士 八代紀彦

辰野久夫

佐伯照道

西垣立也

被告 恩地潤

右訴訟代理人弁護士 片岡成弘

福本基次

平野鷹子

山崎優

豊蔵元子

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  (主位的)

被告は、原告に対し、金一八万四五三〇円及び内金一七万六三二五円に対する昭和五七年二月一二日から完済まで年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。

2  (予備的)

被告は、原告に対し、金一三万二、八〇〇円及びこれに対する昭和五七年一二月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  主位的請求の請求原因

1  原告は、昭和五五年一〇月一〇日、被告の委託を受け、同人が同日販売店である訴外株式会社ビデオライオンズ(以下訴外販売店という。)から買受けたビデオセット一式の代金二四万円を昭和五五年一一月二〇日訴外販売店に立替えて支払った。

2  被告は、右委託日、原告に対し、原告の右立替金に手数料七万九二〇〇円を加算した金三一万九二〇〇円を昭和五五年一一月から昭和五八年一〇月まで毎月二七日限り金五、五〇〇円(但し第一回目は金六、七〇〇円とし、右期間中の毎年一月と七月には各金二万円を付加)宛三六回に分割して弁済する。右分割弁済を遅滞し原告の二〇日以上の期間を定めた書面による催告に応じなかったときは期限の利益を失い、遅滞後完済まで年二九・二パーセントの割合による遅延損害金を支払うことを約した。

3  被告は原告に対し、昭和五六年一〇月までに金一〇万七、二〇〇円を支払った。

4  原告は、被告に対し、昭和五七年一月二二日に到達した書面で、昭和五六年一一月分から同年一二月分までの遅滞分割金一万一〇〇〇円を右書面到達後二〇日以内に支払うよう催告した。(昭和五七年二月一二日限り期限の利益を喪失)

5  よって、原告は、被告に対し、立替金と手数料の合計残金二一万二〇〇〇円から期限の利益喪失後の手数料二万七四七〇円を控除した金一八万四五三〇円及びこの金額から期限の利益喪失時までの未払手数料八、二〇五円を控除した立替残金一七万六、三二五円に対する期限の利益喪失日である昭和五七年二月一二日から完済まで右約定の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  予備的請求の請求原因

1  被告は、訴外販売店からビデオセット一式を現金一括払で買受け立替払制度を利用する意思がなかったのであるならば、原告の立替払制度(クレジット)利用意思の確認の問合わせに対しては、その旨を明確に告知すべきであったしかるに被告は原告担当者から昭和五五年一〇月一日電話により立替払制度利用意思の確認の問合わせを受けた際、訴外販売店から現金一括払で買受け立替払制度を利用しない旨を告知しなかった。この点において被告には少なくとも過失がある。

2  原告は、被告が訴外販売店から現金一括払で買受け立替払制度を利用しない旨を告知しなかった過失行為のため、訴外販売店に対し立替金二四万円の支払を余儀なくされ、うち金一三万二、八〇〇円が回収不能となり、同額の損害金を受けた。

3  よって原告は、被告に対し、損害賠償として金一三万二、八〇〇円とこれに対する昭和五七年一二月一六日(昭和五七年一二月一五日付準備書面送達の翌日)から完済まで民事法定利率による遅延損害金の支払を求める。

三  請求原因に対する認否

1  主位的請求原因につき

(一) 請求原因1の事実中、被告が訴外販売店からビデオセット一式を代金二四万円で購入したことは日時を除き認める。原告が訴外販売店に右代金を立替払したことは不知。その余は否認する。

(二) 同2、3、4の事実は否認する。

2  予備的請求原因につき

(一) 請求原因1の事実中、被告が訴外販売店からビデオセット一式を現金一括払で買受け、立替払制度を利用する意思がなかったことは認めるが、その余は否認する。

(二) 同2の事実中、原告が訴外販売店に対し立替金二四万円を支払ったことは不知。被告の過失行為により原告が損害を受けたことは否認する。

第三証拠《省略》

理由

第一  主位的請求について

一  被告が訴外販売店からビデオセット一式を金二四万円で購入したことはその日時をのぞき当事者間に争いがない。

二  そこで被告が原告と立替払契約を締結したか否かを判断する。本件においては、被告を作成名義人とする甲第一号証(クレジット契約書)が存在するので、同号証の成立の真否を検討するに、次の証拠によって認められる事実以外に同号証の成立の真正を窺わすに足りる事実はない。即ち、《証拠省略》によれば、原告大阪支店営業課に勤務する福田有子が昭和五五年一〇月一日午後五時三五分に被告の勤務先である京都精華女子高校に電話し、被告に対し、訴外販売店からのビデオセット一式の買受けの事実、分割払申込意思、分割払の回数、支払方法の確認(以下、立替払制度利用意思の確認という)をし、被告が異存を述べなかったことが認められる。しかし、《証拠省略》によれば、被告は、勤務先に訪問販売にきた訴外販売店の従業員西山に対し、最初から現金により一括払で購入し、立替払制度を利用する意思のないことを表明していたところ、昭和五五年一〇月月一日、原告よりの立替払制度利用意思の確認の電話がある前、西山からの電話で、訴外販売店の手違いないし内部事情により立替払契約になったので、原告から電話があれば、説明だけですむからその説明を聞いて欲しいといわれ、前記立替払制度利用意思の確認に対しては特に異存を述べなかったこと、被告は甲第一号証の作成を当時知らなかったことが認められる。

そうすると、原告からの立替払制度利用意思の確認に対し被告が異存を述べなかったことによっては、甲第一号証が被告の真正に作成したものであることを認めるに由ないものといわなければならない。

他に原告と被告間に立替払契約を締結したことを認めるに足りる証拠はないから、原告の主位的請求は理由がない。

第二  予備的請求

一  被告が訴外販売店からビデオセット一式を現金一括払で買受け、立替払制度を利用する意思がなかったことは被告の認めるところであり、被告が原告担当者から昭和五五年一〇月一日立替払制度利用意思確認の問合せに対し、訴外販売店から現金一括払で買受け、立替払制度を利用しない旨を告知しなかったことは前記第一、二で認定のとおりである。

二  そこで被告に、原告からの立替払制度利用意思の確認の問合せに対し、その利用意思のない旨を明確に告知すべき注意義務があったか否かを検討する。

原告と訴外販売店との関係は、《証拠省略》によれば、基本契約により、訴外販売店は原告の信用調査を経て原告が承諾する顧客に対し、原告の定めた契約書にもとづき現金販売価格で商品を販売し、原告は顧客の訴外販売店に支払うべき代金を顧客の依頼により訴外販売店に支払い、商品の所有権を取得し、顧客より立替代金に立替金利としての手数料を加算して支払を受ける関係にあることが認められる。従って両者間には、継続的な関係しかも実質的には資金供給の関係にある。

一方被告と訴外販売店との間は、ビデオセット一式の売買契約関係にあり、被告と原告との間は、元来なんらの法律関係もないところ、訴外販売店から手違いないし内部事情により立替払契約になったので、原告の説明だけ聞いて欲しいといわれたものである。

右の相互関係のもとで、被告としては、立替払制度を利用すれば、信販会社たる原告から訴外販売店に商品代金が支払われることになるから、原告からの立替払制度利用確認の問合わせに対し、利用しない意思を明確に表示しないときは、原告から訴外販売店に代金が支払われることは予見できたところである。しかし、前記のとおり原告と訴外販売店とは客観的には密接な継続的関係とくに資金供給関係にあるのであり、手違いないし内部的事情により立替払制度を利用することになったと聞いていたので、訴外販売店の受取った代金は、結局両者間で訴外販売店より弁済等により処理されるものであり、これにより原告に損害が発生することはないものと考えるのは無理からぬところであるから、被告には原告に損害を与える予見はないので、立替払制度利用意思のない旨を明確に告知しなかったことにつき、被告に注意義務違反の責を問うことはできない。

第三  結局、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡村迪夫)

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